「せっかく立派な家ができたのに、なぜか落ち着かない」——家が完成した後に、そう感じるお客様に私は何度もお会いしてきました。
理由は、多くの場合一つです。家づくりの最後の最後で家具予算が削られ、毎日目にするもの・身を委ねるものが「間に合わせ」になってしまっているのです。
家を建てたいと考え始めたとき、最初に思い描いた情景を思い出してみてください。それは「立派な家」の姿だったでしょうか。それとも、「くつろげるリビング」「ゆったりと過ごせるソファ」「家族で囲む食卓」——そんな、家具のある暮らしの情景だったのではないでしょうか。
だとしたら、家づくりの順序は逆であるべきです。まず家具を選び、そのあとで箱(家)を考える。1957年創業・累計1万件超の納品実績を持つ中津家具の代表として、2003年から20年以上イタリアで家具を選び続けてきた私から、施主の皆様にひとつの提案をさせてください。
この記事の目次
「家を建てる」の本当の目的は、「家」ではなかった
家づくりの打ち合わせに同席させていただく機会が、近年とても増えました。建築家・工務店・施主が3人で並ぶ席に、家具屋の代表が加わる——少し前までは考えにくかった風景です。
そこで私がいつもお聞きするのが、「そもそも、なぜ家を建てようと思われたのですか?」という質問です。
返ってくる答えは、驚くほど似ています。
- 「家族でゆっくりくつろげるリビングがほしかった」
- 「週末に本を読める大きなソファが置ける部屋がほしかった」
- 「長いダイニングテーブルで、友人を招いてワインを楽しみたかった」
- 「寝室に本当に心地いいベッドを置いて、質の良い眠りをとりたかった」
お気づきでしょうか。お話しいただく情景のどれもが、「家」ではなく「家具のある暮らし」の情景なのです。
大きな窓も、高い天井も、無垢材の床も、それ自体が目的ではありません。「そこにソファを置いて、日の光を浴びながらくつろぐ自分」を実現するための、手段にすぎません。
目的を達成する主役は、家ではなく、家具の側にあります。家は、家具のある暮らしを収める「容器(箱)」なのです。
なぜ家が完成すると、家具の予算が残らないのか
ところが現実の家づくりでは、家具は常に「最後のおまけ」として扱われてきました。
土地を探し、建築家・工務店を選び、間取りを決め、素材を選び、照明を決め……と打ち合わせが進むうちに、当初の予算は膨らみ、最後のフェーズになって初めて「そういえば家具は?」という話題が出る。このパターンを私は20年以上、数えきれないほど見てきました。
そこで施主の方から言われる言葉があります。
「もうローンも決まってしまって、家具は20万円で一式揃うところないですか?」
決して皮肉ではありません。本当に、そうおっしゃるのです。
そして数年後、お引っ越しのご挨拶に伺うと、お施主様はため息をつきながらこう続けます。
「家は立派になったんですが、ソファは買い替えたくて。でも、まだローンが残っていて……」
15年・20年のローンを抱えながら、毎日座るソファは安物。これは本当に、当初望んでいた暮らしでしょうか。
30年単位で見ると、家具の投資対効果は逆転する
日本の住宅の法定耐用年数は木造で22年、鉄筋コンクリートで47年。実際の使用年数もおおむねその範囲です。
一方で、中津家具で取り扱うCassina(カッシーナ)、B&B Italia(ビー・アンド・ビー イタリア)、Molteni&C(モルテーニ)、Poltrona Frau(ポルトローナ・フラウ)、Edra(エドラ)などのイタリア家具は、適切にメンテナンスすれば30年以上使用でき、むしろ使い込むほど革の風合いが深まります。
当社で20年前にde Sede(デセデ)のソファをご購入されたお客様は、先日のメンテナンスのお伺いで「革の艶が増して、新品の時より今の方が好き」とおっしゃっていました。
建物は減価償却で価値が下がり続けます。高品質な家具は、時とともに価値と愛着が深まります。30年というスパンで見れば、投資対効果は逆転するのです。
家具を先に選ぶと、家づくりはこう変わる
では、家具を先に選ぶと、家づくりは具体的にどう変わるのでしょうか。設計段階から家具の寸法と素材が決まっているだけで、家のあらゆる要素が「目的のために」最適化されます。
変わり方1:リビングの広さが、ソファ寸法から逆算される
イタリア家具のソファは欧州の住宅事情に合わせて作られているため、日本の感覚よりも一回り大きめです。例えばCassinaの675 MARALUNGA(マラルンガ)の3人掛けは幅228cm・奥行100cm。前後左右の余白を含めると、少なくとも4.5m×3.5mのリビングスペースが快適に配置できる最小寸法です。
設計段階でこの情報があれば、「リビングは16帖」ではなく「ソファが美しく収まる16帖」として設計できます。
変わり方2:天井高が、照明とシャンデリアで決まる
ダイニング上のペンダント照明やシャンデリアも、家具と一体で考えるべきインテリアです。例えばテーブル上からペンダント下端まで70cm、床からテーブル上面まで74cm、ペンダント高30cmと考えると、床からペンダント上端まで174cm。建築基準法の最低天井高は210cmですが、この場合は少なくとも240cm以上の天井高が欲しい——こうした逆算ができるのは、照明と家具が先に決まっているからです。
変わり方3:床材・壁材の色が、家具の素材と調和する
ウォールナット材のダイニングテーブルとオーク材のフローリングは、どちらも美しい木ですが、同じ空間に置くと微妙な色の違和感が生じます。家具が先に決まっていれば、床材・壁材・建具の色を家具との調和を前提に選べます。「なんとなく合わせる」ではなく、「意図して合わせる」インテリアが生まれます。
変わり方4:窓の位置と大きさが、家具のレイアウトに合わせて最適化される
ソファを置きたい壁面に、設計上の都合で窓ができてしまうケースをよく見かけます。窓の位置は変えられないので、ソファの配置を諦めるしかなくなります。逆に、ソファの位置が先に決まっていれば、建築家は「この壁は壁として残す」という判断ができます。
変わり方5:コンセント・スイッチの位置までが、家具基準になる
フロアスタンド照明やサイドテーブルの位置が決まっていれば、コンセントは家具の真横に配置できます。「使うときにコードが横断する」という日常のストレスを、設計段階で消すことができるのです。
「家具ファースト」で家をつくった3つの事例
中津家具が1957年から積み重ねてきた納品事例の中から、「家具ファースト」で家づくりをされた事例を3つご紹介します。どれも施主様にご快諾いただいた内容を、プライバシーに配慮して要点のみお伝えします。
事例1:Cassina LC2 を置きたい、という想いから天井高が決まった世田谷の邸宅
東京・世田谷区に注文住宅を建てられたお客様は、ご夫妻共にデザインがお好きで、「Le Corbusierが設計した LC2 を置けるリビング」が家づくりの出発点でした。
LC2 は1人掛けで幅76cm、3人掛けで幅180cm。金属フレームのモダンなデザインを引き立てるには、天井と床の水平ラインがくっきりと見える空間が必要です。建築家と相談のうえ、リビング天井高を270cmに設定し、床材はオーク材の柾目、壁は左官仕上げの白漆喰。結果、LC2 の金属フレームが最も美しく見える、ミニマルで格調ある空間が生まれました。
「家より先にソファを決めた」とお施主様は笑いながらおっしゃっていましたが、それが成功の鍵だったのです。
事例2:Poltrona Frau のダイニングセット起点で設計された田園調布のお宅
東京都大田区田園調布の邸宅では、施主様が「Poltrona Frau の Vanity Fair の革椅子で家族の食事をしたい」というご希望から始まりました。Vanity Fair は1930年代から続く名作ですが、座面がやや広く、4脚並べると幅2.4mほど必要になります。
建築家にはこの寸法情報と、Pelle Frau® 特有の温かみのあるこげ茶の革色サンプルを事前にお渡しし、ダイニング空間の寸法・ペンダント照明の位置・床材の色味すべてを、家具との調和を前提に設計していただきました。
ご主人から「朝夕の光がVanity Fair の革に差し込むたびに、家を建ててよかったと実感する」とお言葉をいただいたとき、家具の仕事をしてきて良かったと心から思いました。
事例3:Edra Standardソファを中心にLDKを構成した葉山の別荘
神奈川県葉山町の海沿いの別荘では、施主様が「Edra の Standard ソファで海を眺めながら週末を過ごしたい」というご要望を最初に出されました。
Standard は Francesco Binfaré が設計した革新的なソファで、背もたれを自在に動かせる構造が特徴です。サイズも大きく、自由なレイアウトで使うことが前提のソファです。
建築家はこのソファを中心に、LDK を完全にオープンプランで設計。海側の大開口から、ソファの背越しに海が見えるように視線を通しました。家具のために家を設計する——まさに「家具ファースト」の真骨頂と言える事例です。
家具ファーストで考えるときの5つの問い
では、家具ファーストで家を考えるとき、具体的に何から始めればよいのでしょうか。家具選びのご相談を受ける際に、私が必ずお尋ねしている5つの問いをご紹介します。
- 毎日一番長く時間を過ごす場所はどこですか? ——リビング、ダイニング、寝室、書斎、どこが主役でしょうか
- そこでどんな姿勢で、どんな行動をしますか? ——寝転ぶ、座って本を読む、食事をする、仕事をする
- 誰と過ごしますか? ——一人、夫婦、家族、来客。人数と世代で必要な寸法が変わります
- 朝・昼・夜で光の入り方はどう変わりますか? ——家具の素材選びは光との関係で決まります
- 10年後、20年後も同じ暮らしをしていますか? ——子どもの成長、老後の変化。長く使える家具を選ぶための視点です
これらの問いの答えが明確になると、「本当に必要な家具」が見えてきます。それが決まれば、家に求める条件も自然と決まります。
中津家具が提案する「家具ファースト」の進め方
中津家具では、家を建てる前のご相談から、家具選び、建築家・工務店との連携、納品、その後のメンテナンスまでを一貫してご支援しています。理想の家づくりを「家具起点」で実現するための5ステップをご紹介します。
ステップ1:理想の暮らしの情景を言葉にする
まずは「家が欲しい理由」をもう一度棚卸ししてみましょう。上の5つの問いの答えを書き出すだけでも、頭の中が整理されます。東京・青山オフィスまたは大分・中津ショールームでは、この段階のご相談から承っております(ご予約制)。
ステップ2:家具を先に選び、寸法と素材を確定する
主役となる家具(リビングのソファ、ダイニングのテーブルとチェア、寝室のベッド)を決め、寸法・素材・色を確定します。中津家具では86ブランド・5,990商品のラインナップから、お客様の暮らしに合うものをご提案します。素材サンプルのお取り寄せも承ります。
ステップ3:建築家・工務店と家具の情報を共有する
家具の寸法図・素材サンプル・設置要件をまとめた資料を、建築家や工務店にお渡しします。中津家具ではこの資料作成もサポートいたします。建築のプロは、家具の情報があればそれを前提に空間を設計できるため、むしろ歓迎される進め方です。
ステップ4:家具に合わせて内装を設計する
床材・壁材・天井・窓・照明・コンセントの位置まで、すべて家具との調和を前提に決定していきます。建築家と家具屋が連携することで、カタログだけを見ていては生まれない「自分の暮らしに最適化された空間」が完成します。
ステップ5:家の完成と同時に家具を搬入する
イタリアからの輸入家具は納期が3〜6ヶ月かかるため、家の完成スケジュールに合わせて発注します。中津家具では納期逆算での発注計画もご提案します。家が完成した瞬間、家具も同時に収まる——これが「家具ファースト」の家づくりの到達点です。
よくある質問(家具ファーストの家づくり)
「家は人生で最も大きな買い物かもしれません。しかし、家の中で一番長く触れるのは、家そのものではなく、家具です。家具選びに時間をかけることが、豊かな暮らしへの一番の近道だと私は信じています。」
— 永岡 侍紹央(中津家具株式会社 代表取締役社長)
家具から考える家づくりについて、より詳しくお知りになりたい方は、イタリア家具ブランド完全ガイド、カッシーナ完全ガイドもあわせてご覧ください。ブランド別の特徴と代表モデルを、バイヤーの実体験から詳しく解説しています。