カッシーナ(Cassina)が世に送り出したチェアの中には、20世紀デザイン史を塗り替えた『不朽の名作』が数多く存在します。ル・コルビュジエの「LC2」、ジオ・ポンティの「スーパーレジェーラ」、マリオ・ベリーニの「キャブ」── これらは家具を超えた『工業デザインのアイコン』として、世界中のミュージアムに収蔵されています。
ただ、いざ「カッシーナの椅子を買おう」と考えると、名前は知っていてもどれが自分に必要な一脚なのかが分からない——これが実際に最も多いご相談です。カッシーナの椅子は、成り立ちの異なる複数の系譜が同じカタログに並んでいるため、全体像をつかまないまま個別のモデルを比べても判断がつきにくいのです。
本記事では、1957年創業の中津家具にて2003年から欧州ルートで直輸入して販売してきたバイヤーが、まずカッシーナの椅子の全体像を「3つの系譜」で整理し、そのうえで押さえておきたい名作6選(寝椅子の傑作 LC4 を含む)を解説します。最後にダイニング用・ラウンジ用・書斎用といった用途別・空間別の選び方まで通してご案内しますので、この記事だけで「カッシーナの椅子をどう選ぶか」の判断軸が揃うはずです。いずれも Cassina の現行モデルで、LC2・スーパーレジェーラ・キャブは中津家具のショールームで実物をご覧いただけます。
カッシーナの椅子とは — 3つの系譜で全体像をつかむ
カッシーナの椅子を理解するうえで最も大事なのは、「すべてが同じ性格の椅子ではない」ということです。本記事で扱う6モデルも、成り立ちで分けると次の3つの系譜に整理できます。ここを押さえておくと、カタログを見たときの迷いが大きく減ります。
系譜① 巨匠の名作の正規復刻 — I Maestri に代表される仕事
カッシーナの椅子を語るうえで中心にあるのが、20世紀の巨匠が遺した設計を、権利者の正規ライセンスのもとで復刻生産するという仕事です。1965年に始まった「I Maestri(イ・マエストリ)」コレクションがその代表格。本記事の6モデルでは、LC2・LC4(ル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアン/Cassina が1965年から正規ライセンスのもと復刻生産)と、レッド&ブルー チェア(リートフェルト/I Maestri の一環として1971年から Rietveld 家との正規ライセンスのもとで復刻)がこの系譜にあたります。「デザイン史そのものを所有する」という買い方になるのが、この系譜の椅子です。
系譜② イタリアの巨匠とともに生まれた名作
イタリアのデザイナーの仕事から生まれ、カッシーナが世に送り出してきた椅子の系譜です。スーパーレジェーラ 699(ジオ・ポンティ、1957年)とキャブ 412(マリオ・ベリーニ、1977年)がこれにあたります。いずれもデザイン史に名を残しながら、日常的に使う椅子として設計されているのが大きな特徴。ダイニングチェアとして実際に毎日使える名作を探している方は、まずこの系譜から見ていくのが近道です。
系譜③ 現代デザイナーとの協業 — 今のカッシーナ
カッシーナは過去の名作を守るだけのメーカーではありません。同時代のデザイナーと組み、新しい椅子を生み出し続けています。本記事ではプリヴェ アームチェア(フィリップ・スタルク、2007年)がこの系譜。デザイン史のアイコン性より「今の暮らしでの使いやすさ」を優先したい方に向く選択肢です。
この3つの系譜を頭に入れたうえで、以下の6モデルを見ていきましょう。
カッシーナの椅子 名作6選 — 一覧比較
まずは6脚を一覧で比較。系譜と「向く用途」まで並べると、自分に必要な一脚が絞り込めます。気になるモデルは下の解説で詳しくご覧ください。
| モデル | デザイナー | 発表年 | 系譜 | 特徴 | 向く用途 |
|---|---|---|---|---|---|
| LC2 | ル・コルビュジエ 他 | 1928年 | ① 巨匠の復刻 | キューブ型の20世紀の名作 | リビングでくつろぐ一脚 |
| スーパーレジェーラ 699 | ジオ・ポンティ | 1957年 | ② イタリアの名作 | 片手で持てる超軽量チェア | ダイニング |
| キャブ 412 | マリオ・ベリーニ | 1977年 | ② イタリアの名作 | スチール骨組を本革で包んだ椅子 | ダイニング・書斎 |
| レッド&ブルー チェア | ヘリット・リートフェルト | 1918年原型 / 1923年彩色 | ① 巨匠の復刻 | デ・ステイルを象徴する名作 | アート/アクセント |
| プリヴェ アームチェア | フィリップ・スタルク | 2007年 | ③ 現代デザイナー | 現代的で快適なアームチェア | 書斎・ゲストルーム |
| LC4 シェーズロング | ル・コルビュジエ 他 | 1928年原型 | ① 巨匠の復刻 | 身体に沿う寝椅子の名作 | 窓際で身体を休める |
1. LC2(エルシー・ツー)— Le Corbusier, Pierre Jeanneret, Charlotte Perriand, 1928年

20世紀建築の巨匠ル・コルビュジエが1928年に発表したアームチェア『Petit Modèle(プティ・モデル)』。1965年から Cassina が世界で唯一の正規復刻生産権を持ち、現在も忠実に生産されています。
クロムメッキされたスチールフレームに、本革張りのクッションを「載せる」シンプルな構造ですが、その存在感と座り心地は別格。20世紀建築を代表する名作家具として、世界中の建築家・デザイナー・コレクターのお宅で必ずと言っていいほど見かけます。
中津家具のお客様の多くが「想像以上に座り心地が良い」と驚かれます。
👉 LC2 商品ページ / 歴史・構造・選び方をさらに深く知りたい方は LC2 完全レビュー へ
- サイズ:1人掛け W76 D70 H68cm
- 素材:クロムメッキ スチール + 本革またはファブリック
- こんな方に:建築・デザイン史を所有したい方、モダンな空間を作りたい方
2. スーパーレジェーラ(Superleggera)699 — Gio Ponti, 1957年

「片手の小指で持ち上げられる椅子」として世界中のデザイン愛好家に知られる、ジオ・ポンティ円熟期の代表作。重量わずか1.7kgというのは、一般的な木製チェアの3分の1以下。この驚異的な軽さを実現しながら、大人が座っても問題ない強度を備えています。
原型はリグーリア州の港町キアーヴァリ(Chiavari)で19世紀初頭から職人(seggiolai)が作ってきた軽量木製チェア「Chiavarina(キアヴァリーナ、複数形:Chiavarine)」。1807年にジュゼッペ・ガエターノ・デスカルツィが考案した工芸椅子の伝統です。ジオ・ポンティはこれを徹底的に研究し、無駄な要素を一つひとつ削ぎ落として「最少の素材で最大の強度を生む」現代的なチェアに昇華させました。フレームは無垢アッシュ材(frassino/トネリコ)、座面はインディア籐(stuoia di india)の手編み。すべて手作業で組み立てられます。
中津家具のショールームでは、お客様にスーパーレジェーラを実際に持ち上げていただき、その軽さに驚いていただいています。長年ご愛用いただいているお客様も多く、まさに「一生もの」のチェアです。
- サイズ:W41 D45 H83cm / 重量約1.7kg
- 素材:無垢アッシュ材(frassino/トネリコ)+ インディア籐の手編み
- こんな方に:ダイニングチェアを真剣に選びたい方、ジオ・ポンティの哲学に共感する方
3. キャブ(Cab)412 — Mario Bellini, 1977年

マリオ・ベリーニが1977年に発表した、20世紀後半のチェアデザインを変えた革新的な一脚。スチール フレームに本革を「着せる」ように張り上げた構造で、革の縫い目とジッパーを意匠としてあえて見せる手法が、当時のデザイン界に衝撃を与えました。
キャブの最大の特徴は、革の経年変化を楽しめること。新品時はピンと張った革が、5年・10年と使い込むうちに、人の体に馴染んで柔らかな曲線を描くようになります。MoMA(ニューヨーク近代美術館)の永久コレクションにも収蔵されている名作で、日本でも建築家の自邸でよく採用されているロングセラーモデルです。
中津家具では、ダイニングチェアとして6脚セットでご注文されるケースが定番です。「30年使う家族の食卓には、本物のチェアを」というお客様のご要望にぴったりです。
- サイズ:W47 D49 H82cm
- 素材:スチール フレーム + 本革張り(ジッパー仕上げ)
- バリエーション:サイドチェア(412)、アームチェア(413)、ハイバック/ラウンジ(414/415) など複数の型番展開(最新ラインアップは Cassina 公式カタログをご参照ください)
- こんな方に:ダイニングチェアを長く使いたい方、革の経年変化を楽しみたい方
4. レッド&ブルー チェア(Red and Blue Chair)— Gerrit Thomas Rietveld, 1918年原型・1923年彩色版
オランダのデ・ステイル運動を代表する建築家、ヘリット・トーマス・リートフェルトが1918年に椅子としての形を完成させ、1923年に赤・青・黒・黄の原色で彩色した版を発表したチェアデザイン史の名作。背板がブルー、座面がレッド、フレームがブラックという原色の構成は、ピート・モンドリアンの絵画と並んでデ・ステイル運動の象徴とされています。
Cassina は1965年に始まった「I Maestri(イ・マエストリ)」コレクションの一環として、1971年から Rietveld 家(継承者)との正規ライセンスのもとで復刻生産しています。一般的な「座る椅子」というより、現代美術の作品として購入されるケースが多いモデルです。実際、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の常設コレクションにも収蔵されています。
- サイズ:W66 D83 H88cm
- 素材:ビーチ無垢材(塗装仕上げ)
- こんな方に:デザイン史のアイコンを所有したい方、現代美術愛好家
5. プリヴェ(Privé)アームチェア — Philippe Starck, 2007年
フィリップ・スタルクが Cassina のために2007年に発表したアームチェア。スリムで軽快なシルエットながら、座面には独自の構造設計が施されており、長時間座っても疲れません。書斎やホテルラウンジに置かれることが多いモデルで、控えめながら確かな存在感を持つ一脚です。
中津家具では、書斎やゲストルームの一脚としてプリヴェをお選びになるお客様が増えています。スタルクらしい遊び心と実用性のバランスが評価されています。
- サイズ:W64 D77 H79cm
- 素材:金属フレーム + 本革またはファブリック
- こんな方に:書斎やゲストルームの一脚を探している方
6. LC4(シェーズロング)— Le Corbusier, Pierre Jeanneret, Charlotte Perriand, 1928年原型
厳密にはチェアではなくシェーズロング(寝椅子)ですが、カッシーナの名作椅子を語るうえで欠かせない一台が LC4 です。LC2 と同じく、ル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアンの3人による1928年原型の作品で、Cassina が1965年から正規ライセンスのもと復刻生産を続けています。
ヘッドレスト部分には、木目の方向性を一脚ずつ確認して選別されるイタリア産ウォールナットが使われています。リビングでは「テレビ正面に3人掛けソファ、サイドに1人掛け、窓際に LC4」という配置が定番で、LC2・LC3 と並べれば、ル・コルビュジエ作品の世界観をひとつの空間で完成させられます。
価格は素材・仕上げにより変動しますので、個別にお見積もりいたします。LC2 の歴史と選び方は LC2 完全レビュー を、モデル別の費用感は カッシーナ価格相場ガイド【2026年版】 をご覧ください。
- 素材:スチール フレーム + 革張り(ヘッドレスト部分にイタリア産ウォールナット)
- こんな方に:LC2・LC3 と組み合わせてル・コルビュジエの空間を完成させたい方、窓際で読書や昼寝を楽しむ特等席が欲しい方
用途別・空間別に選ぶ — カッシーナの椅子はどこに置くかで決まる
ここまで6モデルを見てきましたが、実際の選び方はシンプルです。「どの椅子が良いか」ではなく「どこに置くか」から逆算する——これが最短距離です。用途別に整理します。
ダイニング用に選ぶなら
毎日座り、食事のたびに引いて出し入れする椅子です。求められるのは扱いやすさと日常の耐久性。この用途では系譜②のスーパーレジェーラかキャブが定番です。スーパーレジェーラは重量約1.7kgで、片手の小指で持ち上げられる軽さが日々の出し入れで効いてきます。キャブは本革張りで、5年・10年と使い込むほど体に馴染む経年変化が楽しめるため、中津家具では6脚セットでのご注文が定番です。「軽さと佇まい」ならスーパーレジェーラ、「革の経年変化」ならキャブ——この二択で考えると迷いません。
リビング・ラウンジ用に選ぶなら
くつろぐための椅子には、LC2 が定番です。クロムメッキのスチールフレームに本革のクッションを載せた構造で、中津家具のお客様の多くが「想像以上に座り心地が良い」と驚かれます。さらに窓際で身体を休める特等席が欲しいなら LC4(シェーズロング)。リビングでは「テレビ正面に3人掛けソファ、サイドに1人掛け、窓際に LC4」という配置が定番で、LC2・LC3 と並べればル・コルビュジエ作品の世界観をひとつの空間で完成させられます。
書斎用に選ぶなら
書斎にはプリヴェかキャブが向きます。プリヴェはスリムで軽快なシルエットながら座面に独自の構造設計が施されており、長時間座っても疲れません。中津家具でも、書斎やゲストルームの一脚としてお選びになるお客様が増えています。キャブはダイニング・書斎の両方に使える汎用性があるため、将来的に置き場所が変わる可能性があるならこちらが安心です。
アクセント・アートとして選ぶなら
レッド&ブルー チェアは、日常的に座る椅子というより現代美術の作品として迎えるモデルです。MoMA の常設コレクションにも収蔵されており、デザイン史のアイコンを空間に置きたい方に選ばれています。「座るための一脚」を探している場合は、この系譜以外から選ぶのが現実的です。
カッシーナ チェアを選ぶときに必ず確認したい3つのこと
長年 Cassina のチェアを納品してきた経験から、お客様によくお話しているチェック ポイントをお伝えします。
1. 用途を明確にする
前章のとおり、同じ Cassina のチェアでも、ダイニングチェアとして使うのか、書斎の一脚として使うのか、リビングのアクセントチェアとして使うのかで、おすすめモデルが変わります。スーパーレジェーラはダイニングに、LC2 はリビングに、キャブはダイニング・書斎の両方に、といった使い分けが基本です。
2. 6脚セットのときは納期に注意
キャブやスーパーレジェーラを含め、カッシーナ製品の納期は概ね6〜7ヶ月程度です。6脚セットでオーダーされる場合も、すべて同じロット・同じ革で揃えるため同様の納期となります。中津家具では事前に「いつまでに必要か」をお伺いし、逆算してオーダーを進めます。
3. メンテナンスのしやすさ
本革張りのチェアは、汚れが気になったときの乾拭きが基本。木製チェア(スーパーレジェーラなど)は、年に一度のオイルメンテナンスがおすすめです。中津家具ではメンテナンス用品の販売、出張メンテナンス、修理対応まで一貫してサポートしています。
カッシーナの椅子は『投資』として価値が下がりにくい
カッシーナのチェア、特に LC2 やスーパーレジェーラ、キャブのような名作は、20年・30年と使ってもデザインが古びることがありません。むしろ、時間とともに「ヴィンテージとしての価値」が加わり、中古市場でも高値で取引されることが珍しくありません。
これは、量産品の家具と決定的に違う点です。一般的な家具は10年もすれば資産価値がほぼゼロになりますが、Cassina の名作チェアは「使えば使うほど自分の歴史が刻まれる」という点でも、唯一無二の価値を持っています。
「私は2003年からカッシーナのチェアをお客様に納品してきました。20年以上経った今でも『当時のチェアを今も大切に使っています』というお声を聞くたびに、本物を選ぶことの大切さを実感します。LC2 やスーパーレジェーラは、決して『買って終わり』の家具ではありません。何十年と使い続け、家族の歴史と一緒に育っていく — それが Cassina のチェアの本質的な価値です。」
— 永岡 侍紹央
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